Color pallet 4
気合を入れてきたものの、海堂の前に立った桃城はさすがに緊張していた。
そんな自分を立ち上がったままの姿勢でじっと見ている海堂は、無言ではあるが怒っているような様子はない。
そんな彼の様子に力づけられたように桃城は口を開いた。
「あのよ・・・」
・・・しかし、そこから先の言葉がなかなか出てこない。
海堂に会う前にいろいろ言う事を考えてきたつもりだったが、いざ彼を前にしてみると、そんな事はすべて吹っ飛んでしまい、言葉に詰まること数十秒・・・
「・・・あ〜もう!」
重たいほどの沈黙の時間をいきなり大きな声を上げて破ると、桃城は唐突に海堂の腕を捕まえた。
「ぐたぐた考えんのはやめだ、やめ!!」
そう言うなり桃城はそのまま海堂の腕を引き寄せると、彼の瞳をじっと見つめる。
「オレ・・・お前の事・・・好きだ。」
「!」
その言葉に大きく目を見開いた海堂も桃城をじっと見つめる。
その瞳に誘われるように海堂へと一歩距離を縮めた桃城が、その勢いで彼の肩を抱き寄せようとした時、今まで無言だった海堂がようやく口を開いた。
「・・・思い込みだったらどうするんだ?」
「・・・え?」
「お前の、その気持ち・・・」
・・・彼の言葉が嬉しくないわけはなかった。でも、嬉しいというより怖い気持ちのほうが先に立って。
もし、彼のその言葉に踏み出して今まで積み上げてきたものまで失うことになったらどうしようかと。
「・・・かも、しれないな。」
・・・少しの間の後、軽いため息とともに漏れた言葉に海堂は軽く身を竦ませる。
「でもな、思い込みだろうがなんだろうが、今、オレが好きなのはお前だ。それに変わりはねぇ。」
「桃城・・・」
それでは質問の答えになってない、そう言い返そうとした海堂だったが、そう言って自分を見つめる桃城の真剣さに思わず軽く息を呑む。
「お前が、好きなんだ・・・」
何のためらいもなくきっぱりとそう言い切るその強さに思わず海堂は頬を赤らめる。
「・・・あまり何度も連呼するな。」
自分からぷい、と顔を背け、そう呟く海堂に桃城は目を見開いた。
「もしかして・・・お前、照れてんのか?」
「・・・・・」
無言のままの海堂の態度はいつもの慣れたそれで、桃城の顔に安堵の笑みが浮かぶ・・・
「好きだ、好き、好き、すっげぇ好きだ!」
「な・・・っ、ば、馬鹿か!お前!!」
いきなりそう連呼しだした桃城に海堂は目を剥き、うろたえたような声を上げる。
そんな彼を笑みを含んだ目で見ていた桃城はふっとその表情を改める。
「・・・ダメか?」
「・・・え?」
「そういうの・・・なしか?」
「・・・桃城・・・?」
「こんなオレ、やっぱサイテーか?」
「!あ、あれは・・・」
その言葉に海堂が弾かれたように声を上げる。
「あれは・・・」
桃城に投げつけた言葉。でも最後の一言は自分に向けてだった。
好きな人がいるという桃城に、弾みでも触れられた事を嬉しく思ってしまった自分に対して・・・
「だけどよ・・・」
そんな海堂の言葉の間を縫うように桃城が言葉を紡ぐ。
「だけどサイテーと思われても何でもオレの気持ち、伝えときたかったんだ。本当の意味でお前をなくしたくねぇから・・・」
「・・・?」
「今まで一緒にいた時間、そしてこれからも一緒にいる時間も含めて、ウソついて気まずくなんかしたくねぇんだ・・・お前が好きな事はもう隠せねぇから・・・その・・・」
言葉に詰まりながらも、でもいつになく真剣な表情で自分を見つめてくる桃城に海堂はひとつ深いため息をついた。
「・・・それ以上言うな。」
桃城から視線を外した海堂がぼそり、と呟く。
「・・・海堂・・・」
「心臓が・・・持たねぇ・・・」
そう言って俯いたまま一歩桃城へと足を踏み出した海堂はその腕を桃城へと伸ばした。
「か!海堂・・・」
そのまま自分の背に腕を回し、肩口へと顔を埋めてきた彼に桃城は驚きの声を上げた。
「あ・・・え・・・じゃ・・その・・・OKなのか?」
「・・・・・」
その答えの代わりなのか回された腕にほんの少し力がこもり、それを感じた桃城の顔がゆっくりとほころんでいく。
「・・・やりぃ!」
「苦しい、離せ!」
桃城が嬉しそうな声を上げて海堂をぎゅっと抱きしめれば、その力の強さに海堂が桃城の腕の中で抗議の声を上げる。
「・・・少しくらい我慢しろよ。」
しかし、桃城はそれに取り合わず、海堂を抱きしめたまま呟く。
「やっと捕まえたんだから。」
「・・・桃城・・・」
「やっと・・・」
「・・・・・」
耳元でそう囁かれ、これ以上は赤くなれないほど赤くなりつつ、海堂は彼の背を回した手に力をこめた・・・
クラブハウスの近くまで戻ってきた不二は、扉にもたれ、人待ち顔で立っている後輩の姿にゆっくりと微笑した。
「今日はやたら待たされる日みたいっすね?」
「そうみたいだね?」
いつもの口調でそう言うリョーマに不二は笑ってそう返せば、彼は軽く肩をすくめる。
「桃先輩、そっちに行きました?」
「うん、途中で会った。」
「そうすか。」
自分の答えに軽く肯いたきりそれ以上何も聞こうとしないリョーマに不二は苦笑する。
素っ気なくて、冷たいようにみえて、でもその奥には思いがけないほどの優しさと情熱を秘めている彼。
そんな彼を知るのは自分だけじゃないとわかってはいるけれど・・・
「・・・どうしたんすか?」
いつにない柔らかい表情を湛えてじっと自分を見つめてくる不二をリョーマが眩しそうに見返す。
「・・・よかったな、って思って。」
そんな彼に不二はふわり、と笑う。
「自分の好きな人が、自分を好きでいてくれて。」
「・・・え?」
「・・・キミが僕を・・・好きでいてくれて・・・」
ゆっくりと噛み締めるようにそう呟いた不二は、その笑みを照れたようなそれに変え、軽く小首を傾げる。
「もしかして・・・違う?」
「・・・」
そんな不二を目を見開いて見つめていたリョーマだったが、その顔に小さな笑みを浮かべると足早に彼の元へと近づいた。
「・・・越前・・・?」
いつも自分より高い位置にいるこの人がふっと垣間見せるその顔。
それを見る度、独占したいと思ってしまう。自分だけが知っているならいいのにと思ってしまう。
「・・・あんた・・・可愛い・・・」
「・・・え・・・?」
不意にリョーマに抱きしめられ、そう言われた不二は軽く目をしばたいて後輩を見下ろす。
「・・・可愛い・・・」
呟くようにそう言って強く自分を抱きしめてくる彼に不二はゆっくりと笑って彼の背に軽く腕を回す。
「キミの方こそ・・・」
可愛い、と言いかけた不二は見上げてきたその視線にふっとその口をつぐむ。
自分よりも小柄で年下の彼。でも自分を見上げるその瞳も、背中を抱きしめる腕も思いがけないほど力強くて。
「キミの方こそ・・・何すか?」
「越前・・・」
睨むように自分を見つめてくるリョーマに不二は苦笑すると、飲み込んだ言葉の代わりに自分の額を彼のそれへ軽く押し当てる。
「・・・っ」
まるで弟にするかのようなその仕草にリョーマはむっとすると、不二の首裏に手を回す。
「・・・今は我慢してあげるよ。」
そう低く呟くリョーマに不二の頬から微笑が消える。
「でも、そんなには待たない・・・待たせない。」
「越前・・・?」
「ずっと・・・待たせてたんだから。」
「・・・・・」
・・・本当は彼が求めている言葉はずっと胸の内にある。
ゆっくりと目を閉じ、彼の背中に回した手に力を込めれば、首に回された腕にも力が込められ、風になびいた彼の髪が自分の頬を撫でる。
・・・カッコいいよ、越前・・・
小さく笑って呟きかけたその言葉が優しい温もりにふっと途切れた・・・
「・・・ねぇ・・・?」
「・・・ん?」
「・・・部室、今誰もいないんすけど。」
「・・・?」
「さっきの続き、しようよ?」